山口真帆さんの件。自宅が知れることのこわさ。会社の「代表取締役」も同じリスクが?
【この記事の要旨:会社代表者は、登記事項証明書で自宅が公表されてしまいます!】
【この記事の対象(特に読んで欲しい方):著名な方で会社代表者になる予定の方、将来著名人になる可能性があり、かつ、会社代表者にもなる予定がある方、法務に興味がある方】
NGT48の山口真帆さん。
大変でしたね。
こわかったですよね。
「自宅へのおしかけ」、絶対にダメです。
あり得ませんよね。
さて、一般論ですが、
著名人や芸能人など、社会的に「露出」される方々であっても、安寧の場は絶対に必要ですよね。
たとえば「私生活を切り売りに」などという言葉がありますが、その方のプライベートな領域に踏み込んでいくことは、人として絶対に許されないこと、だと思います。
「自宅」は、プライベート領域の中心、安寧の場の砦、です。
知りたい、という気持ちは分からなくもないですが、
それを抑えるのが「良識」ですよね。
(山口さんの件は、このようなことを超えた、もっと悪質で根の深い問題があるのかもしれませんが。)
ところで、
インターネットの発達は非常に利便性を高めてくれましたが、
困ったことも増えました。
その最たるものは、「情報の漏洩(ろうえい)」でしょうか。
出てはいけない情報が出てしまう。
これは、非常に困ったことです。
でも、それだけではないのです。
「情報の伝達」も、そうです。
「情報の伝達」は、一般的には良いことであり、インターネットの最も得意とするところですが、この「情報の伝達」が、ときには「困ったこと」を生じさせてしまうこともあるようです。
それが、今回の論点、「住所」の問題です。
世の中には、「公表されているけど、一般的には知られていない情報」というものが山のようにあります。
これがインターネットにより人々の目に触れるようになったことは、基本的には、とても良いことだと思います。
ただ、なかには、
「公表することの適否をあまり検討しないまま、公表されている情報」というものも、ありそうなんです。
インターネットが今日のように普及する以前は、特段問題にならなかった情報。
それが、たとえば会社代表取締役の「住所」です。
会社の代表取締役は、その「住所」を登記しなければならないのです。
もちろん、架空の住所などではなく、「実際の住所」です。
法務局は、市区町村役場の発行する「印鑑証明書」で確認するので、テキトーな住所を書いておく、といったことはできません。
いえいえ、
このことが、通常、直ちに問題になる、
というわけではないのかもしれません。
でも、
「著名人」などが、会社を設立して代表者になるときは?
代表者の登記された住所は、法務局の「登記事項証明書」を取得すれば、簡単に確認できてしまいます。
そして、法務局の「登記事項証明書」は、誰でも簡単に取れてしまうのです。
(取得に際し、身分証明書の提示なども一切不要。取得したい会社名と、その会社の本店所在地さえわかれば、誰でも簡単に取得できます。)
実は、「登記された代表者の住所を非公開にするかどうか」ということは、以前からも法務省で検討されていました。
しかし、「訴訟手続き上の必要」から、代表者の住所を登記事項として誰でも閲覧できる状態にする、という措置が継続してます。
(インターネットのオンラインサービスでは、代表者の住所を表示しないようにする、という方向で検討しているようですが。)
インターネット普及以前であれば、その国の判断もあながち間違えではないと思いますが、インターネットが発達した現在においては、如何なものでしょうか?
たとえば、ちょっとしたいたずらで、著名な会社の代表者の住所をネット上に晒す、などということが、とっても簡単にできてしまうわけです。
この問題の抜本的な解決は、もちろん、
「自宅」を晒す、「自宅」におしかける、などといった、人として許されざる行動を絶対にとらない、ということなのですが、
残念ながら、残念なひともいる、というのが実際のところですね。
よって、対応策として、国が「登記された代表者の住所を原則非公開にする」という制度を採用することが必要になるわけです。
しかし、国の対応には時間が掛かりますよね。
そこで、次善の策は、やや疑義ある方法ですが、
「設立する会社の本店所在地(会社社屋)に代表者の住所を移転し、そこを「代表者の住所」として登記し、従前の住所は居所(きょしょ)ということにする」という策。
法的には「虚偽の登記」にならないか?という疑問もあり得るのですが、「代表者が著名人である等の理由から、その住所を登記して公表することには危険性が発生しうる」などといった正当な理由があれば、緊急避難的に許容される可能性もあるのでは?
と考えました。
如何でしょうか?
(ただ、この策は「すでに住所を登記された代表者」には使えない可能性があります。住所の履歴が登記事項証明書に残るからです。この場合は、登記された「住所(兼居所)」から「住所」を会社本店所在地に移し、同時に「居所」も新たに別の場所に移す、ということをしなければなりません。この場合においては、新たな「居所」への「実際の引っ越し」が必要になってしまいますし、「住宅ローン」を利用されている方は「住宅ローン控除の適用」につき、ちょっと注意が必要ですね。)
●「住所」と「居所」について。
「住所」とは「生活の本拠地」のことをいいます(民法22条)。「生活の本拠地」とは、「生活の中心となる場所」といった意味です。
一方、「居所」とは「住所」に準ずる場所であり、「継続的に居住しているが、生活の本拠地とまではなっていない場所」と解釈されています。
※「社屋」内であったとしても、一日の大半をそこで過ごし「生活の中心となる場所」となっていれば、その「社屋」を「住所」とすることは可能だと思われます。
一方、この場合に賃借しているマンション等があったとして、そこは定期的に「シャワーを浴びて眠りに行くだけの場所」という認識であれば、そのマンションを「居所」と考えることも可能だと思われます。
しかし、著名人ですと、マスコミ等が「登記されている住所が会社本店所在地!虚偽の登記をしている!」などと騒ぐ可能性はありますよね・・
法的にはクリアーできたとしても、なかなか難しい問題が残りそうです。
日本においては、「プライバシー保護」という観点が、まだまだ弱いのかもしれませんね。
社会情勢に合わせて、そのあたりを整備していく必要があるのではないでしょうか?
山口真帆さんの事件から、そんなことを考えた次第です。
というわけで、
山口真帆さんの事件をきっかけとして、
自宅が知れることのこわさ、
会社代表者のリスク、
ということを考えてみました。
以上、お読みいただきまして、
ありがとうございました!