レーダー照射の動画公開?証言に食い違い?民事訴訟法で考えてみる?パートⅡです!
【この記事のまとめ:「あった」「なかった」の意見対立や、証言の食い違いなどを、裁判所で使う民事訴訟法を用いて考えて見ましょう、という内容です!】
【この記事の対象者(特に読んで欲しい人):民事訴訟法で遊んでみたい人/知的好奇心が旺盛な人】
今回は、「民事訴訟法」で遊んでみましょう!第2弾です!
なお、この記事では、実際の「具体的な事案」について、ああだこうだと考えたり、意見を述べたりするわけではございませんので、その点はくれぐれも、ご了承ください!
(あ、第1弾の『レーダー照射?あった?なかった?民事訴訟法で考えてみます?パートⅠ』をお読みになっていない方は、そちらを読まれてから、この記事を読んで頂いた方が分かりやすいかも知れませんデス!)
【過去記事】
1.「間接事実」とは?
最初に、民事訴訟法に出てくる用語を、ちょこっとだけ解説させて下さい。
「主要事実」というものと「間接事実」というものについてです。
まず「主要事実」というものについて。
裁判所に訴えを提起した人(「原告」といいます)は、相手方(「被告」といいます)に対して、なんらかの権利を請求するわけですが、その「請求する権利」が「ある」ことを、原告は証明しなくてはなりません。
これが、第1弾の『レーダー照射?あった?なかった?民事訴訟法で考えてみます?』で出てきた「立証する責任」、ですね。
そして、「請求する権利」が「ある」ことを、直接的に証明する事実を、「主要事実」といいます。
たとえば、
原告が、
「被告が危険な電波を発信したから、損害が生じた!」
との主張する場合、
原告は、
・被告が故意または過失により、電波を発信したこと、
・その電波が原告に当たったことにより、原告に損害が生じたこと
といった事実を証明する必要があるのですが、
この事実を「主要事実」といいます。
この「主要事実」が証明され裁判所が認定すると、
原告の被告に対する請求(損害賠償請求等)が認められる、というわけです。
つまり、原告が「主要事実」の立証に成功すると、原告の請求が認められる、というわけなんです。
今回、B省が公表した動画は、この「主要事実」を証明するものでしょうか?
・・正直、ちょっとわかりません。
G隊の飛行機にK国の船が発した「電波」が当たったということは、そもそも「映像」だけでは分かりません。
「電波」は目視できないからです。
ただ、電波が当たったという警報が鳴り、飛行機の乗員が「電波が当たったので避けた方が良い」といったことを言って、飛行機が回避行動をとっているということは、映像から伺えますね。
では、この動画からはなにがわかるのでしょうか?
B省が公表した動画から分かる情報は、
・K国の船の近くにN国の漂流船がいて、すでにそれを回収中と思われること
・海面の状態は、わりと穏やかであったように見受けられること
・G隊の飛行機が、電波が当たったということで、回避行動をとっていること
といったあたりでしょうか。
これらは一体、なにを意味するのでしょう?
これを考える前に、民事訴訟法の「間接事実」の説明をさせて下さい。
「間接事実」とは、「主要事実の存在を推認する事実」のことをいいます。
・・すみません、分かりにくいですよね。
いいかえますと、
「請求する権利」があったことを証明する事実(主要事実)そのものではないが、「証明する事実があったかもしれない、と思わせてくれる事実」のことを、「間接事実」、といいます。
例をあげてみますね。
「お金を貸した」ということを証明するための事実(主要事実)としては、
たとえば、
「お金を貸す約束をしたという事実」がこれにあたりますので、「契約書」があれば、主要事実をばっちり証明できる、ということになりそうですよね。
また、相手方が「お金を借りたという事実」を証明するための「領収書」があれば、これも主要事実の証明になりますね。
ところが「契約書」はない。「領収書」もない。
かわりに、
お金を貸すために「その分の金銭を銀行から引き下ろした」という「通帳」はある。
お金を貸すために「相手方と会った喫茶店」の「領収書」はある。
お金を借りた相手方が「おそらくその金銭で購入したらしい物品」の「写真」はある。
というケースです。
これらは、直接的に「お金を貸したこと」の証明にはなりませんが、「お金を貸したという事実があったのかもしれないな、と思わせてくれる事実」になるかもしれません。
こういったものを、「間接事実」というわけです。
実際の訴訟では、相手方に「請求する権利」を、直接的に証明する「主要事実」に関する証拠は、なかなか用意できない、ということが往々にしてあります。
(だからこそ、訴訟になる、ともいえますね。)
そうした場合、相手方に「請求する権利」があったかもしれない、と思わせる「間接事実」をいくつもいくつも積み上げていくことで、裁判官に、原告の被告に対する権利があったのであろう、と思わせることが重要になる、というわけなんです。
さて、話を元に戻しますと、
B省が公表した動画は、
・K国の船の近くにN国の漂流船がいて、すでにそれを回収中と思われること
・海面の状態は、わりと穏やかであったように見受けられること
・G隊の飛行機が、電波が当たったということで、回避行動をとっていること
が分かる感じなのですが、
つまりこれらは「間接事実」の証明になるのでは?
ということなんです。
K国は、
N国の漂流船を捜索するために電波を発した
波が高かったので水上捜索電波だけではなく対空用電波を使った
といったような説明をしていたらしいのですが、
この動画により、
すでにN国の漂流船は回収中であり捜索は完了しているので、N国の漂流船捜索中に、たまたまG隊の飛行機に電波が当たった、というわけではなさそうであること、
と、
波は高くなく、水上捜索のために対空用電波を使う必要はなさそうであったこと、
から、
「K国の船が発した電波は、故意・または過失により、G隊の飛行機に当たったと思われること」
が推認される、
ということになるのでしょうか?
また、G隊の飛行機に電波が当たったということを示す「直接的な証拠」は、たとえばそれを示す「データ」などになるのでしょうが、
この映像は、
G隊の飛行機が、電波が当たったということで、回避行動をとっている映像、
という、「電波が当たったらしいこと」の「間接的な証拠」、
ということになるのでしょうか?
これらにより、
B省は、
・K国が故意または過失により、電波を発信したこと、
・その電波が原告に当たったことにより、原告に損害が生じたこと
といった「主要事実」があったことを、
動画によって間接的に推認させよう、
と考えたのだろうか?
と思ったりできそうですが、
どうでしょうか?
2.「補助事実」とは?
「主要事実」は、原告が請求する権利を直接的に証明する事実、
「間接事実」は、「主要事実」があることを推認させる事実、
ですが、
もうひとつ、「補助事実」というものがあります。
この「補助事実」とは、「証拠」の信用力に関する事実、をいいます。
たとえば、
原告が被告に対して、貸したお金を返して欲しい、
と請求した場合、
被告が、証人Aを連れてきて、「被告は原告からお金を借りていない」という証言を、裁判所においてさせたとします。
これに対して原告が、「証人Aは詐欺師であり、1年前に詐欺容疑で逮捕されている」という証拠を出した場合、証人Aの証言は、信用力をかなり低下させることになりそうですよね。
この場合の原告が主張する「証人Aは詐欺師」という事実が、「補助事実」にあたるわけです。
事案に戻ってみましょう。
K国は、
N国の漂流船を捜索するために電波を発した
波が高かったので水上捜索電波だけではなく対空用電波を使った
といったような説明もしていたらしいのですが、
B省の動画によると、
・K国の船の近くにN国の漂流船がいて、すでに回収中と思われること
・海面の状態は、わりと穏やかであったように見受けられること
がわかるらしく、
そうしますと、K国の証言と食い違うことになりますね。
つまり、K国の証言の証拠力を低下させよう、という「補助事実」としても、B省はこの動画を用いているのかもしれない、と考えることができそうです。
単なる「証言」よりも、「映像」の方が証拠力が高い、と一般的には考えられそうなので、B省の戦略はそのあたりかな?
なんて、ちょっと空想しちゃったりして。
以上をちょっと、まとめますと、
B省は動画により、
下記の「間接事実」と「補助事実」の証明を行おうと考えた、と思われること。
「間接事実」の証明とは、電波発信がK国の故意または過失によるらしいということ、及びその電波がG隊の飛行機に当たったらしい、ということの証明。
「補助事実」の証明とは、K国の説明が映像と矛盾している、ということの証明。
といった感じなのでしょうか?
なお、B省は、「主要事実」の証明を「完全にし尽くした」とまではいえないのでは、と考えることもできそうです。
つまり、「主要事実」の証明とは、
「被告が危険な電波を発信したから、損害が生じた!」
との主張する場合に、
・被告が故意または過失により、電波を発信したこと、
・その電波が原告に当たったことにより、原告に損害が生じたこと
といった事実の直接的な証明ですが、
これは「電波を受信した際のデータ」などが該当するのではないでしょうか?
「データ」であれば、科学的・客観的証拠として、「発信したこと」「受信したこと」「危険な電波であること」「損害が発生したこと」などを直接的に、決定的に証明できる、と思うのですが、どうでしょうか?
この先、B省は、このような決定的な証拠を用いて「主要事実」の立証活動を行うのでしょうか?
それとも、軍事機密等にあたるため、それらはあえて出すことを控えておき、
今回のような「間接事実」をがっちりと積み上げていくのでしょうか?
または「補助事実」により、相手方の言い分を切り崩していくのでしょうか?
そして、相手方は、
B省の出した「間接事実」や「補助事実」に対して、どのような対応をしていくのでしょうか?
・・といったことを考えて見たのですが、どうでしょう?
「民事訴訟法」というテクニックを使ってみると、一見するとごちゃごちゃとした言葉の応酬から、「論理的な展開」が、みえてくるような気がしませんか?
なぜ、このような動画を出すのだろう?
その狙いはなんだろう?
相手方の反応は、なにを狙っているのだろう?
相手方は、その後、どのような対応をするのであろう?
それに対して、どのように対処すべきなのだろう?
・・といったことが、
「民事訴訟法」を用いると、
みえてくることがあるのかもしれません。
あ、もちろん、あくまでも「頭の体操として」、ですよ!
実際の事案における両当事者の考え方などを推測しよう、断定しよう、というわけではありませんので、その点はくれぐれもご了承ください!
「民事訴訟法」というテクニックを用いて、実験的に整理してみると、なんらかのものがみえてくるような感じがする、それがおもしろそう、ちょっと空想してみませんか?という程度のことに過ぎませんので、どうぞどうぞ、ご勘弁願います!
とういうわけで、
「民事訴訟法」を用いての知的遊戯、第2弾!
いかがでしたでしょうか?
お楽しみ頂けたのであれば幸いです!
【関連記事】
ではでは
ここまでお読み頂きまして、
誠に有り難うございました!