国分坂ブログ

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「バーチャルオフィス」を本店所在地にして設立。問題ないのでしょうか??

【要約:バーチャルオフィスを本店所在地にして会社を設立すると、行政庁の許可が必要な事業を行う際、その許可が下りない等、困ったことが発生し得ます!要注意!】

 

【この記事の対象(特に読んで欲しいひと):会社の設立を考えている人/法務に関わる人/法律に興味がある人】

 

 

1.「バーチャルオフィス」でも、法務局での登記はできてしまう

最初に、「バーチャルオフィス」の定義を明らかにしておきますね。

 

この記事では、「バーチャルオフィス」とは、次のとおり定義しております。

・住所、電話番号を借りることが出来る。

・郵便物を受け取ってくれる。

・しかし、部屋などの空間を貸してくれるわけではないので、その場における業務はできない。

 

さて、会社を設立するには、法務局で登記申請をする必要があります。

その申請に際しては、会社として必ず定めておかなければならないことがいくつかあり、その一つが「本店所在地」です。

 

たとえば株式会社を設立する場合、定款に具体的な本店所在地を定めるか、もしくは定款には最小行政区画(各市町村、東京都においては区)までを定め、それ以下の具体的所在地は発起人の決定で定める、という2つの方法があります。

 

具体的な定款の記載例を挙げてみますね。

 

①定款で具体的な所在地を定めた場合 

定款第●条(本店所在地)

当会社は、本店を、東京都●区●町●丁目●番●号に置く。

 

②定款で最小行政区画までを定めた場合 

定款第●条(本店所在地)

当会社は、本店を、東京都●区に置く。

 

そして、上記②の場合には、発起人の決定によって、具体的本店所在地を定める必要があります。 

≪発起人の決定≫

発起人は下記のとおり決定した。

 ・当会社の本店所在地 

  :東京都●区●町●丁目●番●号

 

さて、このようにして「定款」、もしくは「定款+発起人の決定」により本店所在地を定め、登記申請書に定められたとおりの本店所在地を記載し、登記申請書の添付書類として「定款」、もしくは「定款+発起人決定書」を添付すれば、登記手続き上は問題なく受理され、登記がなされることになります。

 つまり、

定めた本店所在地が、「バーチャルオフィス」であったとしても、法務局はそれを全く問題とせず、登記します。

 

なぜなら、法務局の審査は、申請書に記載された本店所在地と、添付書類の「定款」(または「定款+発起人決定書」)に記載された本店所在地とに、相違がないかを確認するだけであり、その本店所在地に、設立する会社の事務所等が実際にあるかどうかを調査するわけではないからです。

 

・・そうかぁ~、

ならバーチャルオフィスでも大丈夫だね~!

と、思いますか?

いやいや、ちょっとお待ちください!

 

2.会社の「目的」によっては、行政庁の許可等が必要となります

会社の「目的」も、会社を設立する際に、必ず定めなければならない事項です。

その「目的」によっては、会社がその「目的」を実際に行う際に、行政庁の許可等が必要となる場合があります。

(※設立した会社の目的に許可等を要する事業目的が入っていても、実際にその事業を行わない間は、許可等申請は不要です。実際にその事業を行う際には、その開始前に、許可等申請が必要となります。)

 

許可等が必要となる具体例としては、

・労働者派遣業

・食品店業

・運送業

・介護事業

・古物商

などなどがあります。

(それ以外にもありますのでご注意くださいね。)

 

さて、この許可等の申請に関しては、登記申請とは異なり、行う事業の「事業場所」が重要な要素となることがあります。

そのため、許可申請書に「事業場所」の図面の添付が要求されることもあるのです。

 

そうしますと、「部屋などの空間を貸してくれないバーチャルオフィス」では、行政庁の許可等は下りない、ということになってしまいますよね?

 

よって、

設立する会社の目的が行政庁の許可等を要する事業であるときは、「バーチャルオフィス」は避けるべきだ、ということになるわけですね!

 

なら、行政庁の許可等を受けない事業目的の場合はどうなんでしょうか?

 


3.金融機関の口座開設審査

「ぼくの設立する会社の事業目的は、行政庁の許可等不要だよ~、

だからバーチャルオフィスでOKだよね~!

安いし、都心の一等地で見栄えもいいし!」

 

いやいや!

ちょっと、お待ちください!!

 

銀行の口座開設審査は、大丈夫でしょうか?

 

法務局での登記手続きが終わり、

設立した会社の登記事項証明書と印鑑証明書が取得出来たら、

金融機関でその会社の口座を開設してもらいますよね。

口座を持っていないと、複合機等事務所機材のリースもできないし、取引相手に対しても送金先を指定できませんからね。

 

おそらく、会社設立登記が完了したら、

いの一番に行くのが、金融機関だと思います。

そこで口座開設の手続きをするわけですが、

その際、

金融機関における口座開設審査があるわけです。

 

この審査が、年々厳しくなっています。

 

マネーロンダリングなど口座の不正使用が多発する今日、

金融機関は神経を尖らしているわけですね。

これは、国際的な潮流ともいえます。

FATF(ファトフ)と呼ばれる政府間機関が、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための勧告指導を行っていて、日本も厳しく勧告指導を受けているんですね。

なので、金融機関の口座開設審査は、今後厳しくなることはあっても、緩むことはないわけです。

 

そうしますと、どうでしょうか、実態のない「バーチャルオフィス」を本店として、果たして金融機関が口座開設を認めるのでしょうか?

 

その判断は個々の金融機関によると思われますが、先に見たように、FATFの厳しい勧告指導を受けているなかですから「大丈夫だろう」と楽天的にとらえることは、ちょっと危険かもしれませんよね。

 

もしも、口座開設が出来なかったら・・・

事業を開始できますでしょうか?

 

その点も含めて、「バーチャルオフィス」を本店所在地にするかどうかは、慎重にご判断を頂ければと思います。

 

 

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4.「バーチャルオフィス」を本店所在地にすることは違法か?

最後に「法的解釈」として、バーチャルオフィスを本店所在地にすることの可否について考えてみたいと思います。

会社法4条に、

「会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする。」

とあります。

 

この解釈が、難しいですね。

「会社の住所」って、なんでしょう?

 

そもそも、「住所」とは何でしょう?

民法22条にあります。

「各人の生活の本拠をその者の住所とする。」

 

この規定は、自然人(=個人)についての定めですが、

これをもし会社に当てはめると、

会社の住所は、「会社の事業の本拠を、会社の住所とする」となるのでしょうか。

 

そのように解釈しますと、

会社の事業の本拠とは、何だろう?ということになります。

 

これは事業の形態により様々かもしれませんが、意思決定をする場なのか、主たる事業目的の作業を行う場所なのか、会社構成員の大多数が現に存在する場所なのか。

なかなか難しい問題です。

 

仮に、

意思決定は、100%株主兼代表取締役の「自宅」で行い、

実際的な事業目的である作業は「倉庫」で行い、

対外的な通信や事務作業は「レンタルオフィス」で行う場合、

どこが事業の本拠になるのでしょう?

 

私の考えですが、この場合は、「自宅」「倉庫」「レンタルオフィス」のどれもが、事業の本拠になり得る、と思います。

この場合は、会社がこの3つのうちの1つを「本店」と定め得る、と考えます。

 

また、もしも、

「意思決定」、「主要事業の作業」、「対外的対応や事務作業」を、自宅とレンタルオフィス両方でやっていた場合は、どうなるのでしょうか?

この場合も、会社の決定で、どちらか一方を「本店」と定め得る、と考えます。

 

ただし、このケースの場合には、「本店」としなかったもう一方を、「支店」と定めて登記しなければならないのでは、という問題が発生し得ると思います。

本店から離れて独自に営業活動・対外的活動を行う場合は、その場所は支店としての実質を備えていることになり、「支店を設置した」と解釈されうるのです。会社が支店を設置した場合には、会社はその支店の登記をしなければならなくなります。(会社法911条3項3号、会社法930条)

 

※「支店の意義」や「支店の実質を備えるか否か」に関しましては、『詳解商業登記・全訂第2版』(きんざい)644頁以下に詳しい記載があります。必要があれば、ご参照してみてください。

 

では最後に、

住所や電話番号があり、郵便物を受け取ってくれるが、部屋がなくて実際の業務ができない「バーチャルオフィス」は、どうなのでしょう?

ここを、「会社の事業の本拠」とすることが、できるのでしょうか?

 

私は、難しいと思います。

事業の実体がない、と言わざるを得ないからです。

 

更に言えば、もしもそのバーチャルオフィスを利用する目的に、

「都心の一等地で見栄えが良い」

「大きな会社だと思わせることが出来る」

という意図があれば、

取引の相手方への欺罔行為(ぎもうこうい:だますような行為)があった、と認定されてしまう可能性があります。仮に違法とまではいえなくても、不正な行為、とみなされるおそれがあるのではないでしょうか?

そうかんがえると、やはり「バーチャルオフィス」を本店所在地とすることは、避けるべきなのかもしれません。

 

※『株式会社の登記全実務』(清文社・2015年12月10日発行版)でも、登記上の本店が会社の活動拠点としての機能を備えていないことについて、否定的な見解を挙げています。必要に応じてご参照してみてください。

 

以上、

「バーチャルオフィス」を本店所在地にすることの問題点でした! 

会社を設立される際には、ご注意ください!

 

ここまでお読みいただきまして、

本当にありがとうございました!

 

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