国分坂ブログ

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会社役員の任期「10年」? 本当にそれ、大丈夫ですか!?

【要約:取締役や監査役の任期を「10年」にした場合、その役員を任期途中で解任したとき、残存任期分の役員報酬を支払わなければならないことがあります!】

 

【この記事の対象(特に読んで欲しいひと):法務に関わる人/法律に興味がある人】


★目次です!

 

1.非公開会社は、定款で役員任期を「最長10年」にできる

 株式会社における役員の任期についてですが、

取締役の任期は、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」であり(会社法332条1項)、

監査役の任期は、原則として「選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」となってます(会社法336条1項)。

 

ところが、「非公開会社」の場合は、定款により、

取締役及び監査役の任期を、最長で「選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」伸ばすことができます(会社法332条2項、336条2項)。

 

「非公開会社」とは、定款に「株式の譲渡による取得について会社等の承認を要する」旨の定め(※)がある会社のことです。

 

※この定めを、「株式譲渡制限規定」といったりします。

≪株式譲渡制限規定の定款記載例≫

「当会社の株式の譲渡または取得については、株主または取得者は、会社の承認を受けなければならない。」

 

 つまり、会社の定款に「株式譲渡制限規定」がある会社は、

役員の任期を最長で10年くらいに伸ばすことができるわけです。

 

これは、ラクですね!

一度役員を定めて法務局での登記手続きをしたら、

10年くらい、登記もほっぽいていいわけです!

よかった~!!

 

・・・って、本当に、それで良いのでしょうか?

(なんか、こわい・・?)

  

2.役員はいつでも解任できるけど・・・

 役員は、いつでも、株主総会の決議によって、

解任することができます(会社法339条)。

 

ここは「従業員」とは大きく異なりますよね。

従業員の解雇はそう簡単にはできませんが、

会社の役員は、いつでも解任できるんです。

つまり、任期を10年と定めていても、

途中で解任できる、というわけですね。

 

なーんだ、じゃあ、

任期を10年にしても、全然問題ないよね~!

いざとなったら解任できるし!

 

・・いや、全然問題がない、

というわけではないのです・・!!!

(えっ~!なに、これ、こわい話?)

 

会社法の339条を見てみますね。

≪会社法339条≫

1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

2項 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

 

 第1項は、先ほど見てきたとおりですね。

問題は、第2項。

「正当な理由」がないかぎり、会社はその役員に対して、解任によって生じた損害の賠償をしなければならない、ということです!

 

「正当な理由」とは、なんでしょう?

たとえばその役員が、横領などの不正行為をした場合などが考えられます。

 

では、その役員を能力不足、として解任する場合はどうでしょう?

もしくは、その役員が病気等で長期休んでいる場合は、どうでしょう?

 

これらの場合、「正当な理由」があるかどうかの判断は、とても難しい、といわざるをえません。

「正当な理由」があるかどうかの判断は、具体的な個々の事案について法的な評価をしながら判断していくことになるため、結構難しいのです。

 

職務上の不正行為や、法令・定款違反行為は、「正当な理由」がある場合の典型的な例だといえますが、

それ以外の場合、正当な理由といえるかどうか、判断がむずかしいわけです。

 

役員の能力不足、という理由で解任する場合を考えてみましょう。

書籍『株式会社法』(江藤憲治郎著)によれば、

・・役員は、その善管注意義務違反の業務執行行為により、会社に生じた損害を賠償する責任を負う。善管注意義務がつくされたか否かの判断は、行為の当時の状況に照らし、合理的な情報収集、調査、検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準(その地位、状況にある者に通常期待される程度のもの)に照らし、不合理な判断がなされなかったかを基準にするべきである・・

といった記載があります。

難しいですねえ・・

少なくとも「些細なミスを犯したから」、という理由で役員を解任した場合は、「正当な理由」としては認められない、と考えられそうです。

 

では、病気や怪我で長期の休みを取らざるを得なくなった、という場合はどのように考えるのでしょうか?

「役員としての職務を執行することが出来なるなるほどの長期入院をする場合」などには、「正当な理由がないとはいえない」、と判断される可能性もあるようです。(最判昭和57年1月21日判例)

しかしこれは、具体的な事案ごとについて検討してみないと、なんともいえません。

似たような事案だとしても、具体的な事情によっては、

「正当な理由なし!会社は損害賠償責任を負いなさい!」

という裁判所の判断が下されるかもしれませんっ!(こわっ!)

 

つまり、

役員の解任はいつでもできる、

しかし、

「正当な理由」がないと、

会社はその役員から損害賠償請求をされてしまう。

「正当な理由」があるかどうかの判断は、とっても難しい!

というわけです。

 

ですので、

役員を解任する場合は、

役員から損害賠償請求をされてしまう可能性が十分にありうる

ということを、

認識しておかなければならないのです!

 

なお、会社法339条2項の「解任によって生じた損害」とは、その典型的な例が「残存任期分の役員報酬」といえるでしょう。

 

 

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3.役員任期は「10年」でいいのか?

 役員を解任すると、

その役員から損害賠償請求をされる可能性がある、

という認識に立ったうえで、

もう一度、

会社の定款に「株式譲渡制限規定」がある会社の場合、

役員の任期を「10年」にしてもよいのか?

を考えてみましょう。

 

10年。

長いですよね・・。

会社を運営していて10年間、

全く波乱もなく安定成長、

そういう会社さんもあるかとは思いますが、

10年は、長いですよね。

・・なにがあるかわかりません。

 

仲が良くって信頼できるAさんを、取締役に迎えました。

任期は、10年。

ところが、3年後、会社の状況は急激に悪化。

Aさんとも経営方針をめぐり対立。

関係はぎくしゃく。

 

社長であるあなたは、

Aさんに支払う報酬も大変だし、

Aさんと仕事について話すのもつらい。

いっそ、辞めてもらえないか・・

・・そのように考えるようになりました。

ところが、Aさんに辞任することを打診してみたら、ものすごい剣幕で拒絶されてしまいました。

あなたとAさんとの対立は、社内の誰もが知ることに。

従業員を前にして、社長であるあなたも、もう後には引けない状況です。

 

会社の株主は、社長であるあなただけ。

株主総会でAさんを解任するのは、簡単です。

よし、やるか・・!

と思いましたが・・・。

 

もしもAさんを解任した場合、

Aさんから「残存任期7年分の役員報酬」を、

「解任によって生じた損害」として賠償請求されるかもしれない!

 

つまり、そういうわけなのです・・・!

 

仮に、会社法が定める原則とおりに、

取締役の任期を「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」、としておけば、

上記のような問題が発生しても、最悪1~2年、じっと我慢すればいいのですが、

もしも10年に延ばしてしまったら・・・

大変ですよね。

 

そのようなこともしっかりと考えたうえで、

是非、役員の任期を定めて頂ければと思います!

 

以上、

会社役員の任期「10年」、

本当にそれ、大丈夫ですか!?でした!

ご参考になれば幸いです!

 

ここまでお読みいただきまして、

本当にありがとうございました!

 

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